先日、たまたまNETFLIXにお試し加入したんですが、かねてより観たいと思っていた映画があったので、視聴しました。
「メッセージ」というSF映画です。
ある日突然、異星人の巨大宇宙船が世界12か国に出現。軍に協力を依頼された言語学者ルイーズがチームを組んだ理論物理学者イアンともに、彼らが何の目的で地球に現れたのかを探るという物語です。
※この予告編、「娘を喪った言語学者ルイーズ」と言っていますが、これ、間違いです(そこがこの映画のポイントでありややこしい点)。
観ている途中、こんな形而上的で哲学的な映画、理解されるんだろうか?と思いました。これ、言語学の奥深い魅力を知っている人とか、現代物理学で「時間は幻想」という考え方があると知っている人しか楽しめないのではないか?とも思いました。
この映画が、どのように世間に受け入れられたのか調べてみると、やはり、賛否両論ですね。
最上級の言葉で熱烈に褒めちぎっている意見がある一方、つまらない、わからないという多数の意見。興行的には成功したらしく、よかったという思いです。ちなみに、監督は私の大好きな映画「ブレードランナー2049」のドゥニ・ヴィルヌーヴです。
私は、この作品を観終わって最後には非常に深い感銘と満足感が残りました。
緻密に構築された脚本に、しっかりとした人間ドラマが組み込まれているのです。運命を受け入れること、子どもを産み、育てること、人を愛し、やがて別れること、これらの事柄が繊細に描かれているのです。
SFには、未来の武器でドンパチする分野(スターウォーズが代表)と、対極にある分野として、人間・意識の存在や文化・文明や知性の意味など深遠なテーマを扱うものがありますが、明らかに後者の作品です。いちばん近い映画は「コンタクト」ですね。「コンタクト」では父親を亡くした主人公が、異星のテクノロジーを利用して意識を拡大したときに亡き父と再会する場面がありますが、シチュエーションは似ています(ここで紹介しています)。
この「メッセージ」という映画は、地球外生命体との接触という設定により、人間の知性や意識、時間、人の運命などを新たな視点から見直すことに成功しています。そう、異星人と遭遇するというSFの設定は、あくまでも手段であり、目的ではないのです。その状況に対峙した人間のドラマが人を感動させるのです。
※ ※ ※
この映画の冒頭に、娘の誕生シーンと、早逝する娘との死別シーンがあります。
生まれた娘に、「戻ってきて」とつぶやきます。亡くなった娘にも「戻ってきて」とつぶやきます。
娘が亡くなって病院の円環の廊下を歩くシーンに主人公のモノローグがかぶります「はじまりと終わりなんて存在しないのかも」と。おそらく、人の運命に関して。あるいは、森羅万象に関して。
この映画のキーポイントは、「円環」です。異星の生命体は、円を描く言語を用います。
円環をなす時間の流れを表現するために娘の人生を描いています。娘の名前がそのことを象徴しています。
「円環」ははじまりも終わりもなく、完全でひとつのものです。
時間が流れるのは幻想であり、自由意思も幻想ですべて運命だとしたら、人はどう死別の運命を受け入れるべきなのか考えさせられます。
ラストで、すべてを知った主人公は過酷な運命に立ち向かっていきます。もし、人の人生がはじまりも終わりもなく、完全でひとつのものなら、それはきっと正しい選択なのでしょう。
[補足]
もし、一度目でわからないところがあれば、Wikipediaに完全なストーリーが載っていますのでこれを読むとよいと思います(私も当初、娘の姿のフラッシュバックの意味がよくわかりませんでした)。この映画のストーリーを完全に把握したうえで、最初の数分を二度観すると、母親の子を思う姿に、ほんと泣けます。そして、ラスト10分の湖畔の窓辺のシーンあたりから観ると、ラストの主人公のなにげない返信にどれだけの思いが秘められているかあらためて理解できて、さらに泣けます。そして、気づいてください。この映画は、ラストシーンと、冒頭のシーンがつながっているのです。