映画「ブレードランナー 2049」を観てきました。
期待以上の出来で、観終わってからというものずっと余韻に浸っています。
切なく、胸を打つ物語です。

美しい映像と心を揺さぶる音楽、そして何よりもエンターテイメント性を保ちながらも、存在、命というものを深く考えさせられる哲学的なストーリーに衝撃を受けました。

前作から一貫したメインテーマがさらに深く掘り下げられており、見事な脚本というしかありません。
前作は伝説的SF映画といわれるほどの名作ですが、それを見事に超えています。



人でもなく名前もない主人公K(ライアン・ゴズリング)は、不確かな自己のアイデンティティを抱えながらも、ロス市警(LAPD)のブレードランナーとして、同胞かも知れない人造人間レプリカントと闘い続け、心の隙間をホログラムAIの恋人ジョイ(アナ・デ・アルマス)との恋愛で埋め合わせる日々を過ごしています。
皮肉なことにホログラムAIであるジョイがこの物語で最も良心的なキャラクターで、前作でのヒロインレイチェルと同じ悲哀を湛えています。---人ではないこの自分はいったい何なのか。彼女の切なさと健気さには涙を誘われます。

主人公Kがある発見をし、前作の主人公デッカード(ハリソン・フォード)を探し求めることから物語は動き始め、二転、三転、意外な展開を見せます。
---存在、命とはなにか、このメインテーマを深く掘り下げながらも、人の残酷さ、醜さ、そして、美しさと気高さをないまぜにしながら、二人の邂逅(かいこう)は人類の新しい歴史の展開をも予感させる高みに突き抜けます。

さまざまなものを失いながらも闘い続ける主人公は、切なく、悲しいものにさえ映ります。

これは守るべきものを見つけて、闘い続ける男の物語と、守るべきものを愛し続ける女の物語ともいえます。報われること、そして、報われないことがあります。
報われない哀しみに出遭いながらも、それでも日々闘い続けることが人生なのでしょうか。

     ※     ※     ※

この映画に通底する昏さ(くらさ)は、人類の愚かさと、人の存在の危うさにあります。
猥雑で退廃した世界---それでもその世界をスピナーで飛び回るときには都市の灯がこの上なく美しいものとなります。前作と同様に、今作でもスピナーで未来世界を飛び回るシーンには心を奪われます。同様に、人の日々の悲しみや苦しみの奮闘も、俯瞰(ふかん)すれば美しいものに見えるのかも知れませんね。

     ※     ※     ※

この物語が深い余韻を残すのは、想像を広げる余地がふんだんにあるためでしょう。

特に、前作のヒロインレイチェル(ショーン・ヤング)は本作では、ほぼ登場しないのに、彼女があれからどのような人生を過ごしたのだろうかとか、そのときにどんな喜びや悲しみを感じたのだろうかとか、これからどのように思われていくのだろうかとか、想像は広がっていきます。前作からのファンは、レイチェルに対する愛おしさが止められないでしょう。

哲学的で難しいテーマを内包しているので、万人受けする映画ではありません。残酷なシーンも多くあります。
スターウォーズのように敵をやっつけて万歳という明るさと単純さはないのです。

でも、少しでも興味があったらぜひ観てみてください。
映像の美しさだけでも観る価値はありますし、ヒロインのジョイ(アナ・デ・アルマス)の可愛らしいキュートさを愛でる(めでる)だけでも価値はありますよ。

     ※     ※     ※

なお、かなり長い映画(163分)ですので、事前にトイレを済ませて水分は控えめにしておくことは大切です。あと、できれば前作「ブレードランナー」を観ておきましょう。物語として、かなり密接なつながりがあります。
そして、前作「ブレードランナー」と今作「ブレードランナー 2049」の間を補完する短編物語が3つ作られていますので、これも観ておくことをお勧めします。

3つの短編はオフィシャルサイトで無料公開されていますが、場所がわかりにくいので、ここにも貼っておきますね。

「2022:ブラックアウト 」(15:43)


「2036:ネクサス・ドーン」(8:00)


「2048:ノーウェア・トゥ・ラン」(7:17)